スコセッシ、ソダーバーグ、ノーランも絶賛
『殺しの分け前/ポイント・ブランク』(67)は、犯罪小説『悪党パーカー/人狩り』(62)の映画化。フィルム・ノワールの定番ともいうべき裏切りと復讐のドラマを、ヌーヴェルヴァーグの型破りな手法とアメリカ西海岸発祥のサイケデリック・カルチャーを交えて描き、それまでのハードボイルド映画を刷新した。マーティン・スコセッシ監督は、「ヌーヴェルヴァーグの新たな表現を初めてクライム・アクションに応用し、ジャンルを再定義した」と讃え、スティーヴン・ソダーバーグ監督は、自作の中で「何度も盗ませてもらった」と告白している。また、クリストファー・ノーラン監督は、「主人公のアイデンティティの問題に切り込んだこの作品は、とにかく素晴らしい」と賛辞を惜しまない。
ハリウッド最強のタフガイと英国の巨匠が、
映画の表現規範を破壊
主演は60年代アメリカン・タフガイを代表するアクション・スター、リー・マーヴィン。『キャット・バルー』(65)でアカデミー賞・主演男優賞を受賞後、『プロフェッショナル』(66)『特攻大作戦』(67)と大ヒット・アクションに連続主演。『ダーティハリー』(71)に先駆け、超大型拳銃スミス&ウェッソンM29 44マグナムを激射するマーヴィンは、復讐に憑かれた主人公の傷だらけの内面までも繊細に演じ、代表作の一本となった。監督は『脱出』(72)『未来惑星ザルドス』(74)『エクスカリバー』(81)などで名高い英国の巨匠ジョン・ブアマン。時空間を断片化し、鮮烈なカラー表現とともに夢と記憶と幻想を交錯させる、ハリウッド映画の表現規範を破壊する先鋭的な演出で観る者を幻惑する。謎に満ちた結末は、今なお世界中のファンや批評家の議論の的となっている。
クライム・アクション史に多大な影響を与え続ける
不滅の金字塔
この作品で初めてロケが許可されたサンフランシスコ湾・アルカトラズ島刑務所の廃墟は、後に『ダーティハリー3』(76)『アルカトラズからの脱出』(79)『ザ・ロック』(96)でも使われ、アクション映画の聖地となった。また、ロサンゼルスを舞台にした『ザ・ドライバー』(78)『ハートブルー』(91)『レザボア・ドッグス』(92)『ヒート』(95)『ドライヴ』(11)『ストレイ・ドッグ』(18)など、LAクライム・アクションの数々や、時間と記憶をモザイク化した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84)や『メメント』(00)には、本作からの可視/不可視の影響がそれぞれにうかがえる。
物 語
ウォーカー(リー・マーヴィン)は、親友リース(ジョン・ヴァーノン)とともにアルカトラズ島刑務所の廃墟で行われる組織の取引を急襲、大金の強奪に成功する。だが、リースはウォーカーを裏切って銃弾を浴びせ、金を持って逃げ去った。「夢だ、これは夢だ…」。薄れゆく意識の中、ウォーカーの脳裏でさまざまな記憶と幻想が交錯する―。